旗本退屈男で市川右太衛門が愛用した刀の鞘。
数々の時代劇の刀を倉庫に保管する(京都府宇治田原町)
旗本退屈男、水戸黄門、必殺仕事人といった京都発の時代劇からNHK連続テレビ小説、「新婚さんいらっしゃい!」「探偵!ナイトスクープ」まで-。関西で作られる映画やテレビ番組の小道具を一手に担う「高津(こうづ)商会」(京都市右京区太秦)が今年、創業100周年になる。京都府宇治田原町にある倉庫にはファン垂ぜんのお宝がずらり。映像文化を支えてきた歴史を物語る。
「眠狂(ねむりきょう)四郎 田村(正和)様分」「必殺仕事人 中村主水(もんど)一式」「長七郎 里見(浩太朗)様分」…。番組や有名俳優ごとに、刀が箱に納められている。
昭和のスター、市川右太衛門が旗本退屈男で愛用した刀は、雲龍の蒔絵(まきえ)を鞘(さや)に施した1950(昭和25)年ごろの作。4代目の高津(たかつ)博行社長(65)は「衣装や印籠と合わせ2千万円はかかっている。映画黄金時代の逸品」と誇る。阪東妻三郎が丹下左膳で使った刀、勝新太郎の座頭市の仕込み杖もある。トム・クルーズ主演のラストサムライでは2千本の刀を用意した。今でも計1万本以上を倉庫に保管している。
こうした刀は真剣でなく、カシの木などに銀色の箔(はく)を張っている。傷がつくと箔を張り直す。担当の櫻(さくら)井照彦さん(51)は「卵白を接着剤代わりに塗ると、後ではがしやすいんです」。殺陣では本来、相手に刀を当てないので、上手な役者ほど刀に傷が付かないという。
もともと上京区の道具屋だった。「日本映画の父」牧野省三から頼まれたのを機に近くの撮影所と付き合いが始まり、京都製作の映画の小道具を独占的に担ってきた。溝口健二、黒澤明ら監督たちの求めに応じて、甲冑(かっちゅう)や屏風(びょうぶ)など文化財級の品まで集める一方、創作もした。扱う品は「爪楊枝(つまようじ)から戦車まで」。二・二六事件の映画ではブルドーザーを基に戦車まで作った。
「大阪ほんわかテレビ」「よーいドン!」など、在阪テレビ局の小道具も全て扱う。「新婚さんいらっしゃい!」では、桂文枝さん(74)がこけやすい椅子を用意する。高津社長は「私も昔は深夜の11PM(イレブンピーエム)で藤本義一さんが座る椅子をスタジオに並べていました」。
映画やドラマでは、いろんな時代の小道具が求められる。テレビならブラウン管から薄型まで。冷蔵庫なら電気のない時代に氷で冷やしたタイプまで豊富にそろえる。「たった一つの物でも、映れば時代が伝わる。撮影時に『ない』とは言えない商売。捨てずに何でも置いています」
一方、鎧(よろい)や駕籠(かご)などは近年、俳優の体格が大柄になったのに伴い昔より大きく作る。「映像で見栄えするのが第一」という。
「山科義士まつり」「亀岡光秀まつり」など各地の祭りに甲冑を貸し出したり、武将ファン向けに着付け体験コーナーを本社に設けたりもしている。
倉庫では新入社員たちが甲冑の付け方の研修を受けていた。「常日頃やってないと、こうした技術はすぐにはできない」と高津社長。BSやCS放送向けに時代劇の製作数が少しずつ盛り返しており、「やはり時代劇を撮り続けることで、技や魅力をきちんと継承したい」と力を込める。
多様な小道具が山積みになっている倉庫
100周年記念の特別展「小道具~映像美術と共に」が6月27日~7月1日、中京区の京都文化博物館である。「旗本退屈男」の刀をはじめ、数々の時代劇で使われた普段は非公開の小道具を一堂に披露する。入場無料。
「新婚さんいらっしゃい!」のセットを再現して写真が撮れるコーナー、甲冑を着られるコーナーも設ける。
(京都新聞)