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「吐き気を催す差別!」東京医大問題、台湾メディアにボロカス言われている

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「吐き気を催す差別!」東京医大問題、台湾メディアにボロカス言われている


東京医科大学


         

 8月2日、『読売新聞』が報じたスクープが物議を醸している。中堅の私立医大である東京医科大学が、一般入試において女子受験者の得点を一律に減点して合格者数を抑えていたことを報じたのだ。これに世論は沸騰し、ツイッターでは日本社会に根強く残る女性差別に怒りを占めるハッシュタグが乱れ飛んでいる。

アジアでも遅れを取る日本の“男女平等度”

 2017年、世界経済フォーラム(WEF)の世界ジェンダーギャップ報告書によると、調査対象となった144カ国のうちで日本のジェンダー・ギャップは114位にとどまった。このランキングはアフリカ各国の順位がかなり高く、対してアジア各国が全体的に低い順位になるなど統計方法にちょっと問題もありそうだが、アジア内でも日本の男女の権利平等度合いは、シンガポール(65位)やタイ(75位)に遅れを取り、インドネシア(84位)や中国(100位)にすら負けるという惨憺たる結果になっている。

 なお、この調査は対象国に台湾を含めていないのだが、台湾は女性の社会参加が日本よりも進んでいる――。というより、おそらく東アジアでもっとも進んでいる。

女性議員率38%。驚くほどリベラルな台湾

 総統(大統領に相当)の蔡英文からして女性だし、最大野党・国民党の前党首も女性。国会議員に相当する立法委員の女性率は38%に達し、国際平均の22%を大きく上回る(ちなみに中国は24%で国際水準以上だが、日本は13.7%で世界140位である)。台湾では女性社長も多く、女性の社会進出は明らかに日本よりも進んでいる。

 中国や韓国と比較して「歴史問題」が比較的穏健な台湾でも慰安婦問題への視線が厳しく、国民党の馬英九・民進党の蔡英文と政党が異なる歴代総統がそれぞれこの問題に関心を示す発言をおこなっているのも、「女性の人権問題」としてこの問題が懸念されているからである。


 付言すると台湾はLGBT問題についてもアジア有数の寛容な姿勢を取っており、昨年5月には台湾最高裁が同性婚の不許可を違憲とする判決を出した(2年以内に法整備される)ほか、2016年には蔡英文政権の政務委員(閣僚級)にトランスジェンダーの唐鳳氏(当時35歳)が選ばれた。台湾のこういう面は日本では一般にあまり知られていないが、実は驚くほどのリベラル国家なのである。

ボロカスに報じられている「東京医大問題」

 ゆえに、今回の東京医科大学の女子受験生差別問題は、台湾でも大いに燃え上がっている。まずは現地の大手メディアの見出しをざっと紹介しよう。

・ひどい性別差別! 東京医科大学、女子受験生の点数天引き(「嚴重性別歧視! 東京醫科大學:女考生先扣分」『華視新聞』)

・東京医科大が女性受験生差別、入試で軒並み点数天引き、成績を8~9割に(「東京醫大歧視女考生 入學試一律扣分 成績打八或九折」『ETtoday新聞雲』)

・もっとも吐き気を催す差別! トップクラス医科大学が女子受験生に「まずは点数を天引きしてから」とやっていたスキャンダル(「最噁歧視!頂尖醫科大學遭爆逢女考生「先扣分再說」」『中時電子報』)

・東京医科大学がすべての女子受験生の点数天引き、陋習(ろうしゅう)は少なくともすでに7年間(「東京醫大凡女考生都先扣分 陋習至少已七年」『中廣新聞網』)

・女子学生にこっそり点数天引き、東京医科大学の差別スキャンダルが大暴露される、白い巨塔の暗黒面、8年にわたり手を加えられた入学試験(「女學生偷偷扣分 東京醫科大爆歧視醜聞 白色巨塔鄢暗面 8年來入學考被動手腳」『台視新聞』)


 とまあ、台湾のメディアが大手媒体でもハデな見出しをつけるせいもあるが、「陋習」「吐き気をもよおす」「白い巨塔の暗黒面」と、ボロカスな言われようだ。台湾は日本に対して好感を持つ人が多いとされ、また旧宗主国だった日本をなんとなく「進んだ国」とみなす風潮も多少はあるのだが、それゆえにギャップが大きかったということか。

「日本は18世紀に身を置いているようだ」

 一連の報道のなかでも、特に手厳しいものを紹介しておきたい。以下に引用するのは、「Yahoo!論壇」(台湾の「Yahoo!個人」に相当)に掲載された、国立政治大学国際関係研究センター教授の蔡筯家先生の「東京医大差別事件から見る日本の男女平等問題の黒歴史」と題したコラムである。ちなみに蔡先生は男性の日本・韓国研究者で「マンガから日本を見る」と題した講義を担当している日本通。もちろん日本語もできる。

<日本は先進的な工業国家ではあるのですが、多くの時代遅れのものごとも存在し、さながら18世紀の幕府の時代に身を置いているのではないかと思わせることすらあります。男女平等(の問題)はそのなかの一例です。


 最近、日本の名門校である東京医科大学で、女性の合格人数を抑えるために、長期にわたり女子受験生が「自動的に」点数を天引きされていたことが明らかになりました。(略)>

果ては慰安婦まで持ち出して……

 元の読売新聞の記事では、東京医科大関係者が女子減点を「いわば必要悪」と述べたことや、女性医師が結婚や出産で離職すれば、東京医科大の系列病院の医師が不足する恐れがあることが背景にあったと報じられている。蔡先生はそれらに触れたうえでこう書く。

<これはそんなに崇高な理由があってのことなのでしょうか。いや、典型的なショービニズムによる妨害に過ぎません>

 ショービニズムとは排外的な愛国主義のことだが、ここでは偏狭な男性中心主義を指しているのだろう(もしくは東京医科大の組織防衛を社会倫理に優先させている考え方を指しているのかもしれないが)。


<なるほど、日本が大戦中に軍人の心理状態をおだやかにすることを理由に、アジアの各国で慰安婦を徴用したり、敗戦後の米軍占領期に日本政府が各地にRAA(特殊慰安協会)を設立して米軍兵士の性欲を満足させ、日本の大和民族の血統の純血性を守ろうとしたのも納得がいくところです。(略)戦時中にこのようだったのにとどまらず、(日本の女性に対する姿勢は)戦後も変わることはありませんでした>

 その後、蔡先生は高度成長期に女性が家庭に入ることが当然視されてきたことや、その後も女性の収入が低く抑えられていること、企業幹部に女性がほとんどいないことなど様々な事例を挙げていく。

 コラムの最後は、東京医科大の女子への点数調整が「暗黙の了解」とされていたことを指摘したうえで、「ここからもわかるように、日本における男女平等への道のりはまだまだ長いようなのです」と結ぶ。

台湾でも山地原住民の人身売買があったが

 正直、蔡先生のコラムは論理としては乱暴であり、現在の問題を批判するのに過去の事例を持ち出すのも考えものだと思う。例えば70年前の慰安婦問題を日本の男女差別の根拠として言及するなら、台湾だって25年ほど前までそういうことがあったじゃないか(1990年代まで、中国大陸との最前線に展開する中華民国軍の駐屯地には「軍中楽園」と呼ばれる半公営の慰安所があった)と言いたくもなる。

 1990年代までの台湾は、マフィアが山地原住民の女性を都市部の性産業へ人身売買する仕組みをはじめ多くの性搾取構造が存在し、また独裁時代の国民党政権までは女性の政治登用も決して多くはなく、かつては男女平等とは程遠い社会であった。とはいえ、現在ではこうした意見がけっこう力を持ってしまうくらい、男女平等についてはリベラルな価値観が広がっている。

「昭和の遺産」を中華圏からもバカにされる日

 台湾ほどではなくても、香港やシンガポールなど他の中華圏の先進地域はもちろん、中国国内でも都市部を中心にこうした傾向はやはり存在する(中国は政治体制以外の部分は結構リベラルだ)。ゆえに今回の東京医科大の事件は中国大陸でも報じられているほか、事件以前の話だが、今年6月26日には『人民日報』に「日本が男女の平等を実現する道はまだ遠い」と題した記事が掲載されたこともある。

 医療の世界の保守性に限らず、小中学校へのクーラーの不設置や炎天下での部活動の強要、通勤地獄や女性の社会進出を阻む原因となっている硬直的な労働環境など、日本には昭和の時代までは当然視されてきた非合理的な習慣が現在までナアナアで残っている例が少なくない。

 日本人自身はなんとなく現状に納得している人も多いため、まあ別にいいのかもしれない。ただ、この手の「昭和の遺産」は欧米圏からはもちろんのこと、近ごろは中華圏の諸国からも奇異の目で見られるようになりつつあることは指摘しておいていいだろう。

文春オンライン


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