カエデの木で彫られた広野像(左)=大津市・延暦寺

天台宗総本山・延暦寺(大津市)にあったカエデの古木から、宗祖最澄の幼少時の姿をした木像「広野像」が誕生した。同宗岡山教区の有志が京都の仏師に依頼して制作し、8月上旬に延暦寺で奉納式が営まれた。
天台宗の高僧だった故葉上照澄大阿闍梨(あじゃり)が住職を務めていた常住寺(岡山市中区)の復興プロジェクトの一環。同寺は長く管理者が不在のまま荒廃していたが、2016年に岡山教区の有志が大阿闍梨顕彰碑を建立したのを機に、3千体の仏像を納める「三千佛堂(ぶつどう)」が新たに造られるなど復興が進む。
延暦寺のカエデは根本中堂(国宝)の中庭にあったが改修工事に伴って伐採。切った木を岡山教区宗務所長の永宗幸信さん(57)が譲り受け、三千佛堂への仏像の奉納者に対する返礼品の念珠を作るなど活用してきた。
譲り受けた当初から永宗さんは「お山にあった木を何かの形でお山に戻したい」と考え、京都市中京区の仏師松久佳遊さんに仏像の彫刻を依頼。松久さんが一部の木を使って広野像(高さ約60センチ)を彫り上げた。
最澄の幼名「広野」にふさわしく子どもらしさを残しつつも決意を秘めた表情で、松久さんは「とても堅い材で彫るのに苦労したが、表情を特に意識した」と完成を喜ぶ。
奉納を受けた延暦寺の小堀光實執行は「根本中堂に長くあった霊木が形を変えてお山に戻ってこられた。教区の方々のお心に感謝したい」と話している。
【京都新聞】