帆船をイメージした外観を持つ京都府京丹波町蒲生の大型施設「ビジョンダンマーク」が本年度中に解体される。1992年のスペイン・セビリア万博の「デンマーク館」を、旧丹波町が93年に10億円で移築。町のシンボルになるはずだったが、有効活用されぬまま姿を消す。12月末、館内に入り、「夢の跡」をたどった。
「大きい」。高さ約28メートルの建物を見上げ、思わず声をあげた。国道9号沿いにあり、目にする機会は多いが、間近に立つと、壁面にさびや汚れが目立ち、時の流れも感じた。
町職員に鍵を開けてもらい、中に入ると円すいを半分に切ったような空間が広がった。300人収容のホールで、窓の隙間から陽光が差し込み、教会のような荘厳な雰囲気が漂う。とはいえ、床にはちりが積もり、椅子や看板が放置され、廃虚の印象だ。音楽会や結婚式などに利用されたが、近年は倉庫として使っていたという。
高さ10メートル以上の音響設備「スピーカータワー」も目を引く。床の一部はガラス張り。「外壁に水を掛け流し、ガラスの下や周囲の池に流れる構造ですが、水を循環できないため費用がかかって…」。職員の説明に実用性の乏しさを感じた。
会議室がある2階の通路は板張りで腐食が激しい。歩くとメリメリと嫌な音を立てた。足の形に開いた穴がある。底が抜け、1階に落ちる恐怖心から、進むのを断念した。
旧丹波町は「京都デンマーク公園」として、一帯を整備する計画だった。竣工(しゅんこう)式当日は歌手の財津和夫さんらのコンサートもあり、盛り上がった。
当時、式典に携わった長澤誠住民課長(54)は「福祉などの先進地デンマークと交流を深め、まちづくりに生かそうと期待が膨らんだ」と振り返る。だが、経済低迷などで計画が頓挫し、老朽化や防災の観点から解体が決まった。
意匠優先の使い勝手の悪さや、見通しの甘さも活用しきれなかった要因だろう。個性的で存在感のある建物だけに、知恵をしぼり、まちづくりに生かせなかったのか、と惜しまれる。
跡地には新たな町のシンボルとなる役場庁舎が建つ。