東京国立近代美術館の映画部門「フィルムセンター」(東京都中央区)
東京国立近代美術館の映画部門「フィルムセンター」(東京都中央区)が4月に同館から独立し、映画に特化した美術館「国立映画アーカイブ」に昇格する。ゆかりのある京都の関係者は「公的に映画が歴史的遺産として認められた」と評価し、貴重なフィルムの保存や映写技術の継承に弾みがつくと期待する。
同センターは1970年に開館し、歴史的価値の高いフィルムの収集や修復、学術研究を行っている。所蔵フィルムは1899年撮影の「紅葉狩」など重要文化財3件を含め約8万本に上る。4月から京都国立近代美術館(京都市左京区)などと並ぶ6施設目の国立美術館になる。
独立の目的はフィルム保存に向けた組織基盤の強化だ。文化庁からの運営交付金に加え、映画文化への特化をアピールして寄付の受け入れ拡大を目指す。職員60人のうち有期雇用の映写技術者ら約50人の正規雇用化を進め、デジタル撮影の普及に伴って希少となった映写技術の維持も図る。
ユネスコ(国連教育科学文化機関)は1980年の勧告で映画をはじめとする映像保存を各国に求めた。しかし、フランスが職員300人の国立機関で進め、韓国は製作者に国へのフィルム納入を義務付けているのに比べ、日本は体制整備が遅れていた。
「近年は名作を繰り返し見る人が増え、日本作品への海外の関心も高まったことが後押しとなった」と、京都文化博物館の森脇清隆・映像情報室長はみる。京都はかつて「日本のハリウッド」と呼ばれるほど撮影が盛んな地で、フィルム収集も府がフィルムセンター開館と同じ70年代に始めただけに、「映画が学術的に認められたことになる」と歓迎する。
同センターの独立は故河合隼雄氏が文化庁長官在任時に方向性を決めたものだった。同庁文化部長として河合氏の意を受け、2003年に映画振興の12提言をまとめた映画評論家の寺脇研・京都造形芸術大教授は「一部の映画マニアだけを対象とせず、商業的には上映の難しい無名な若手の作品を取り上げるなど、新たな作品を生み出す支援にも活動を広げてほしい」と訴えている。