龍宮浪漫譚を手にこれまでの取り組みに思いをはせる橋本さん
(京丹後市網野町・松栄屋)
京都府・丹後の地酒を京丹後市の海底に沈めた熟成酒「龍宮浪漫譚(ろまんたん)」が今春引き上げられ、出荷を迎える。市内の酒販店と漁師が4年前に発案し、遺失や盗難など紆余(うよ)曲折を経ながらも続けてきた。だが、漁師の男性が2年前に他界。酒販店の男性は熟成されたまろやかな地酒の味をかみしめ、亡き友に取り組みの成功と継続を誓っている。
龍宮浪漫譚は2014年、同市網野町の酒販店「松栄屋」の橋本幸憲さん(55)が同級生で漁師の故松尾省二さんに持ち掛けて始まった。現在は、翌春に酒蔵や地酒ファンらで結成した団体「丹後酒梁(ささりょう)」が続けている。
熟成させたのは、京丹後市の白杉酒造や熊野酒造、竹野酒造、宮津市の天橋立ワイナリーなど7社の日本酒やワイン8種類。秋に丹後の海の水深27メートルに沈め、翌春に引き上げている。紫外線が届かない水深と穏やかな温度変化、波の振動で熟成が進み、柔らかい口当たりが特徴という。
14年秋に初めて一升瓶や4合瓶80本を沈めたが波にさらわれ全て行方不明に。16年春と秋の引き上げ分は成功したが、昨春は全て盗難に遭った。今春は無事、4月末に720本が引き上げられた。
松尾さんは橋本さんに誘われ、海に関する関係機関への許可などに尽力し、闘病の末に白血病で16年夏に亡くなった。熟成酒を飲むことはかなわなかったが、初引き上げは同行できたという。
橋本さんは「省二君と引き上げた時は万感の思いだった。二人で夢を語り合い作り上げたお酒。龍宮浪漫譚をきっかけに丹後の酒を全国の人に知ってもらいたい」と話した。
14日から販売する。4合瓶(720ミリリットル)で4065~5400円。松栄屋0772(74)0058。