故山下達雄さん=左=と故山下亮子さん
京都市は本年度から、市内の児童養護施設などを退所して1人暮らしをする進学者を対象に、月額2万円の修学費の給付を始める。1982年から31年間にわたって計3100万円を市に寄付した夫妻の善意を生かし、給付制度を創設する。夫妻の遺族は「こつこつと行った寄付が若者の成長に役立てば」と願っている。
児童養護施設には親がいなかったり、虐待されたりした子どもが暮らしている。18歳で高校を卒業した後は原則退所する必要があるが、退所後に生活面や経済面で困難な状況に直面するケースが多く、支援が課題となっている。
給付対象は、市内の児童養護施設や児童心理治療施設など17カ所や里親から巣立ち、進学する若者たち。市が毎年300万円を予算に計上し、12~13人に給付する。給付期限は大学卒業年にあたる22歳で、学習意欲を審査するために毎年小論文の提出を求める。
修学費に充てるのは「山下奨学基金」。茶道美術品商「清昌堂やました」(上京区)の4代目店主山下達雄さんが83歳で亡くなるまで、その後は妻亮子さんが94歳で亡くなるまで毎年ほぼ100万円を「修学が困難な生徒のために使ってほしい」と寄付し、市が基金として積み立ててきた。
市が今年3月、修学費への活用を遺族に伝え、了承された。山下さんの孫の憲太郎さん(43)は「祖父は還暦を機に、商売を続けられたことへの感謝から寄付を始めたようだ。祖父母の思いが生かされればうれしい」と話す。
市子ども家庭支援課は「昨年度に実施したアンケートでは、お金が足りずに進学を諦めた退所者がいたが、修学費給付制度の創設でそのような若者がいなくなるようにしたい」と話している。
市は17日開会の5月市議会に、同基金を取り崩すための条例改正案を提出する。6月の施行を目指す。