鎌倉時代の歌人藤原定家(1162~1241年)が、平安時代の歌学書「俊頼髄脳(としよりずいのう)」を写した最古の写本(重要文化財)が、活字化され翻刻本として近く出版される。所蔵する冷泉家時雨亭文庫(京都市上京区)が3日、発表した。写本は江戸中期が最古とされていたが、500年さかのぼり原典に近い内容となる。原稿は、第2次世界大戦で戦死した23代当主がほぼ仕上げていたもので、70年余りを経て和歌研究の基礎資料として日の目を見る。
俊頼髄脳は平安後期の歌人源俊頼が、関白藤原忠実の娘で鳥羽天皇の后に献上した。1237年に定家と側近が書写した「定家本」の翻刻は23代当主の為臣(ためおみ)が手掛けていたが、1944年に中国湖南省で戦死。定家本の所在も分からなくなっていたが、2005年に冷泉家で見つかった。
翻刻本はB5判、323ページ。ページの上半分に、為臣の原稿を載せ、定家の補筆や修正も分かるように書き添えた。下半分には、江戸期の冷泉家当主による「為久本」や1940年出版の「日本歌学大系」の両写本と異なる部分を記し、比較できるようにした。
刊行に向け、和歌論に詳しい鈴木徳男相愛大教授が、時雨亭文庫調査主任の藤本孝一龍谷大客員教授と相談し、2015年から定家本との照合を進め、体裁を整えてきた。鈴木教授は「多くの写本は仮名遣いの訂正や漢字の書き換えが行われ、原典と内容が変わる。為臣氏の翻刻は、原典の約120年後に書写した定家本をかなり正確に活字化している点で価値が高く、和歌研究の基礎資料になる」と話す。
為臣は生前、門外不出だった冷泉家の典籍の公開を進めようと、1942年に「時雨亭文庫」と題して1巻目を刊行した。その遺志を受け継ぐため、81年に財団法人化した時雨亭文庫理事長で現当主の冷泉為人氏は「23代当主の思いを受け継ぎ、俊頼髄脳を2巻目として発刊する。冷泉家や財団としても大いに喜ばしく、歴史や文学を研究する一助になることを願う」と話している。
1冊1万3500円。5日から発注を受けて販売し、和泉書院06(6771)1467。