アンケートで来館者らに意見を聞く地元住民団体メンバーら
京都市美術館(左京区)の命名権を売却する「ネーミングライツ」の問題で、美術関係者や作家、作品の寄贈者、住民から、不安や危惧の声が広がっている。京都の現代美術関係者たちは全国の美術関係者から集めた意見書を市長と市美術館長宛てに提出し、地元住民たちは美術館前でアンケートを行った。
意見書は、50年以上現代美術を発信する老舗の「ギャラリー16」(東山区)がメールで募り、現職の美術館長や学芸員、評論家から返信のあった22件を提出した。意見を寄せたふくやま美術館(広島県)元副館長の萬木(ゆるぎ)康博さん(68)は「市美術館は、競技場などと違い、多くの市民の志が積み重ねられたコレクションを核としている。それは公共性への信頼に対する蓄積で、市民の思いへの敬意を持つべきだ。市の困窮は分かるが、支援してくださる企業への顕彰の仕方は、美術館らしい流儀があるはずだ」と話す。
海外の美術館などでは、個別の展示室や棟に対する命名権設定の先例はあり、意見書には「1社のみでなく、より広く美術館活動への財政的な協力を求められるのでは」とする意見や「広く基金を募るべきではないか」との提案もあった。
一方、地元住民でつくる「岡崎公園と疏水を考える会」は1日、市美術館前で来館者らへのアンケートを行い、約7割が命名権の売却を知らないことが分かった。約200人に声をかけ、41人が回答した。100億円で老朽化設備の改修と現代美術館建設を行う事業について、命名権の売却費50億円で経費の半分を賄う整備の在り方は「財源を含めて見直すべき」が約4割(18人)、「老朽化対策・改修にとどめる」が約3割(13人)いた。同会世話人の小岸久美子さん(68)=左京区=は、命名権売却実施の公表が8月上旬だったため、それを知らない市民が多いとみて、「一度立ち止まり、多様な意見を踏まえて結論を出すべきだ」とする。
作品を寄贈した市民からも、動揺する声が上がる。寄贈者の一人、仙石早苗さん(77)=同=は「文化都市の美術館の歴史と信頼に寄贈した。企業名が付くなら、作品をどうするか考えたい」と語る。