井伊次郎に関する記述が見つかった新史料=京都市東山区の井伊美術館で
戦国時代の遠江国・井伊谷(いいのや)(現浜松市北区引佐町)の領主で、来年のNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」の主人公、井伊直虎の新たな史料が見つかったと井伊美術館(京都市)が発表した。女性として描かれている直虎が、井伊家を従えていた今川家の家臣の息子だった可能性が高いという。
史料は「守安公書記・雑秘説写記(ざつひせつしゃき)」と題する三冊の冊子。井伊家が彦根藩を治めていた一六四〇(寛永十七)年に家老の木俣守安がおばたちから聞き書きした内容を、江戸中期に子孫の木俣守貞が書き写した。
この中で、井伊谷が複数の武士による勝手な支配で鎮まらないため、今川氏真が、家臣の新野(にいの)左馬助親矩(ちかのり)のおいで、同じく家臣の関口越後守氏経(うじつね)の子を井伊谷の領主の「井伊次郎」とし、治めさせた-との記述があった。
井伊次郎は一五六三(永禄六)年ごろから五年ほど領主を務めたと推測される。今回の史料に「直虎」との記載はなかったが、地元の神社に伝わる古文書には、関口との連名で「次郎直虎」の名前と花押があることなどから、「関口の息子である井伊次郎が直虎」と考えられるという。
通説では、井伊家菩提寺(ぼだいじ)の龍潭(りょうたん)寺(浜松市北区)に「次郎法師」の名前が書かれた寄進状があることや、住職が江戸時代にまとめた「井伊家伝記」などから、「次郎法師」という女領主が直虎で、初代彦根藩主の直政の養母とされてきた。冊子には「次郎法師」の文字や、直政と井伊次郎との関わりは書かれていなかった。
冊子は同館の井伊達夫館長(74)が、約五十年前に滋賀県彦根市内の古道具店で買い、今年八月末に記述を見つけた。井伊館長は「次郎法師が実在したのは間違いないが、今回の井伊次郎とは別人。偶然記述を見つけた時は背筋が寒くなるほど驚いた」と話した。
新史料のほとんどが木俣守貞の字だと鑑定した母利(もり)美和・京都女子大教授(日本近世史)は「傍証と照らし合わせても、直虎を男と示す決定的な史料。最近の研究で、井伊家伝記には史実と違う部分があることも分かってきており、史実を再整理すべきだ」と話している。