京都造形芸術大(京都市左京区)は30日、歌舞伎俳優の二代目市川猿翁(えんおう)=三代目猿之助=さん(76)から映像や写真、台本など歌舞伎にまつわる所蔵資料約2万点の寄贈を受けたと発表した。同大学は「『猿之助歌舞伎』と称される数々の復活狂言や、『スーパー歌舞伎』創作の実像に迫る貴重な資料」として、一般公開に向けた整理を進めており、将来的には資料館の構想なども視野に入れる。
寄贈品は、猿之助さんの舞台や自主公演などを収めたビデオテープやフィルム約2500本をはじめ、楽屋裏やプライベートを写した約8千点、書籍約7700冊、台本約1千冊などで、軽井沢(長野県)の住居兼稽古場に保管していた。かつて同大学の劇場「春秋座」の芸術監督や副学長を務めた縁で昨年、大学側に寄贈を打診した。
大学では、膨大な資料を精査し、目録の作成を進めている。また映像資料のうちテープの劣化が激しい約300本について、先行してデジタル修復を行った。
映像には猿翁さんが歌舞伎に現代的な感覚や演出技法を取り入れた新作群「スーパー歌舞伎」の稽古風景を収めたものも。台本には細かな書き込みが多数残され、同じ演目でも公演ごとに内容を書き換えるなど、作品を常に更新し続けた様子が分かる。アーカイブ化に携わる田口章子教授(古典芸能)は「創作過程の記録をこれほど克明に残している歌舞伎俳優はほかにいない。天才がどれだけの努力でつくられてきたかがうかがえる」としている。
京都造形大では年1回程度、成果を報告する公開フォーラムを開く予定で、初回は9月24日に開催する。猿翁さんは「今回寄贈したものは、私の歌舞伎人生そのもの。歌舞伎の世界だけでなく、舞台芸術の歴史の一部として、後世の参考になりましたら、大変うれしい」とコメントした。