京都アニメーションへの思いを語る福富優樹さん
アニメ「中二病でも恋がしたい!」で主人公が通う高校のモデルになった「旧鎌掛小」
(滋賀県日野町鎌掛)
京都市伏見区の「京都アニメーション」(京アニ)第1スタジオの放火殺人事件で、同社の作品作りに関わった人たちが、さまざまな感情を抱いている。「まだ気持ちの整理がつかない」「つらくて悲しい。どうしてこんなことに」。事件から8日で3週間。犠牲者を悼みつつ、心が癒えることはない。
■映画「リズと青い鳥」の主題歌担当
【Homecomings – Songbirds】
京都を拠点に活動するバンド「Homecomings」は、京アニの映画「リズと青い鳥」の主題歌「Songbirds」を手掛けた。作詞を担当したギターの福富優樹さん(28)は事件を聞いた時の心境を「悲しみや怒りより、とにかく無事であってほしい、との思いだけだった」と振り返る。
主題歌を作るにあたり、バンドのメンバー4人で第1スタジオを見学した。「アニメスタジオは締め切りに追われているようなイメージがあったが、朗らかな雰囲気で良い会社だと思った」。スタッフから作業の説明を受け、「暖色のイメージ」を抱いたという。訪れたその日は夕日が美しく、英語の歌詞にも反映させた。「脚本をかなり読み込み、作詞した。スタジオを見学したことでイメージできた」
福富さんは石川県から大学進学で京都市左京区に引っ越した。当時放送していた「けいおん!」に周辺の風景が登場していることを知り、「京都に住んでいることを実感した」という。好きな出町柳が舞台の「たまこまーけっと」もお気に入りの作品だ。
事件当日の夜、ツイッターで「沢山(たくさん)のスタッフの皆さんとの時間は僕たちにとってとても大事なもので、Homecomingsが今こうして4人で一緒に演奏したり音楽を作っているのはそんなかけがえない経験のおかげです」と発信した。
「スタッフの皆さんとは打ち合わせや舞台あいさつなどで何度も会い、少なくない関わりがある。とにかく無事であってほしい、との思いは変わらない」。気持ちの整理はついていないが、自分たちに何ができるか、バンドのメンバーで話し合っているという。
■「中二病」ロケ地を紹介
映画やテレビドラマの撮影を支援する「滋賀ロケーションオフィス」(大津市)は、京アニの「中二病でも恋がしたい!」シリーズで、主人公の家や通っている高校などのロケ地をスタッフに紹介した。製作陣のロケハンに同行した事務局長の和田英之さん(46)は「熱心にアニメ作りに臨み、滋賀の観光面に大きな貢献をしてくれた人たちが、どうしてこんなことに」とうつむく。
「湖岸の町」を舞台にしたいという京アニ側の要望を受け、県内の約15カ所を紹介。和田さんは、議論を重ねながらさまざまな角度から写真を撮るスタッフらのひたむきな姿が印象に残っていると話す。「どうすればロケ地の魅力を最大限に引き出せるか、アニメファンを引き込むことができるかを探求する姿勢に、プロ意識を感じた」と振り返る。
アニメで登場したヴォーリズ建築の旧伊庭家住宅(近江八幡市)は、それまで一部の建築ファンしか訪れない隠れた観光スポットだったが、放送後は世界中のアニメファンが訪れる「聖地」に。同じく多くのファンが訪れる旧鎌掛小(日野町)では、作品への思いをつづるノートや京アニへの支援金を募る募金箱が設けられ、事件の発生後もファンの足が途絶えない。
和田さんは「復興に向けて大きな困難があると思うが、また素晴らしい作品作りのお手伝いができれば」と話す。
(京都新聞)