(台北 30日 中央社)台湾大学(台北市)日本研究センターが29日、学内で講演会「嘉南大シュウにおける日本精神」を開催し、日本統治時代に烏山頭ダム(台南市)の建設を主導した水利技師、八田与一氏の孫に当たる八田修一氏が、祖父の人生哲学について語った。(シュウ=土へんに川)
嘉南大シュウは、台湾最大の平地、嘉南平野を潤すために必要な水を運ぶ大規模な水路で、工程には烏山頭ダムの建設も含まれる。1920年に着工し、1930年に完成した。
修一氏は、スライドやビデオを用いて、地震対策や工期短縮に苦心した与一氏の姿を伝えたほか、与一氏が嘉南大シュウ竣工翌年となる1931年にロータリークラブに入会したときのあいさつ文を紹介。「土木工事でやり損なった場合には貯水池の決壊ほど災害の大なるものはありません。かかる大責任を負わされたものは非常に研究し、且つ考えて、結局人生の問題にまでも立ち入りました」とする一節が、当時の与一氏の心境を物語っている。
修一氏はまた、今年4月に、ダムに設置されている与一氏の銅像が壊された事件にも触れ、ショックだったとしながらも、「祖父が台湾に残したかったのは銅像ではなかったはずだ」ときっぱり。また、与一氏の願いとして、老朽化が進む取水トンネル「烏山嶺トンネル」に代わる、第2トンネルに言及。烏山嶺トンネルでは掘削工事の際に事故で多数の犠牲者を出したが、2015年から進められている第2トンネルの工事では、決して事故が起こらないようにしてほしいと、祖父の気持ちを代弁した。
「日本精神」は台湾でよく使われる言葉だが、修一氏によると、この言葉を教えてくれたのは李登輝元総統。現代の日本人は忘れてしまったとしながらも、なんとか水がみんなに行き渡るようにしたいと願ってダム建設に取り組んだ祖父の強い思いがこれに相当するのではとの見方を示した。
台湾大学日本研究センターは、3カ月ごとに日本文化交流教室を開催しており、今回の講演会は12回目。センターの林立萍主任は、これからも引き続き、日本と台湾の交流深化を図っていくとしている。