就任したばかりの台湾の頼清徳行政院長は先月26日、国会に相当する立法院で行った演説で、「台湾はすでに『中華民国』という名の独立国家。あらためて独立を宣言する必要はない」と語った。
これを受け、中国の台湾政策を担当する報道官は「台湾が国家であったことはなく、永遠に国家になりえない。台湾独立の動きに関与すれば結果を伴う」と警告した。
行政院長は首相に当たるポジションだ。この人の言っていることはまったく正しい。台湾は人口が2350万人で、最高指導者の総統と立法委員(国会議員)は国民が直接選挙で選んでいる。また、台湾本島以外にも澎湖(ほうこ)諸島、金門島、馬祖島…などを実効支配している。さらに、ニュー台湾ドルという貨幣も発行している。
1949年の中華民国建国以来、中華人民共和国は1日たりとも台湾を統治したことがないし、税金も徴収していない。外国人が台湾に旅行する際も、台湾政府やその在外公館にビザ申請が必要で、中国の在外公館では台湾の入国手続きはしていない。
人民、領土、主権・国境、軍隊、通貨、憲法、…と、私がUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)大学院公共政策学部教授として教えている「国家の成立条件」を全部満たしている。ということで、どの角度から見ても台湾は主権独立国家だ。
しかし、正しいことを指摘すると、中国は激怒する。国際連合も台湾を国家とは認めていない。ニクソンショックによって中華民国に代わって国連安全保障理事会常任理事国になって以来、中国が議案拒否権を持っているからだ。中国が「一つの中国」という理不尽な概念を主張しても、台湾も、その他の国も何も言えない。
両国の交流窓口機関は92年に台湾の辜振甫と中国の汪道涵がシンガポールで会談し、「一つの中国」を確認したとされる。中国側がこれを「中華人民共和国政府が台湾を含めた全中国を代表する唯一の合法的政府であるという『一つの中国』の原則を確認した合意」と主張するのに対し、台湾側は「『一つの中国』の中身について、それぞれが述べあうことで合意した」と主張している。
つまり、「『一つの中国』という原則は認めましょう。ただし、どちらが正しい国かという議論はやめておきましょう」ということ。その後、会議が何度も行われたが、お互いの主張に関与しないという暗黙の了解のもと、両岸の貿易、人的交流は拡大し、中国も激怒しないで収まっていた。周恩来、田中角栄、トウ小平らが尖閣問題を棚上げしたのと似た問題の先送りだ。
ただ、昨年5月に誕生した蔡英文政権(民進党)は「この合意は国民党政権時代にやったことで、民進党は関与していない」と主張している。こういう状況の中での台湾の首相の発言というわけだ。台湾海峡、にわかに波高し、という気もする。
■ビジネス・ブレークスルー(スカパー!557チャンネル)の番組「大前研一ライブ」から抜粋。