(大紀元 10・22)
北京には現在、大小さまざまなカフェが林立している。顧客の心を掴もうと、コーヒーだけでなくスイーツも味わえる喫茶店も多く、店同士の競争も日増しに激しくなっているという。北京の片隅の胡同に、台湾の女性が開いた「繁体字」という名前のカフェが人気を集めている。繁体字とは旧字体の漢字のことで、台湾や香港では使用されているが、現代中国の日常ではほぼ姿を消している。カフェ「繁体字」は、あるユニークな創意工夫で中国人から外国観光客まで好評を博するようになった。
台湾の中国文化大学中国文学部を卒業した李雪莉さんは、読書をこよなく愛する女性だ。
十数年前に北京に住み始めた時、雪莉さんは米国の大富豪バフェット氏の本を購入した。
中国国内で翻訳出版された簡体字の書籍だった。だが雪莉さんはこれを読んで非常にがっかりしたのだという。翻訳があまりにもひどすぎたからだ。のちにこのことがきっかけで、雪莉さんは自分で書店を開くことになった。海外の著作の大陸翻訳版と台湾翻訳版を同時にそろえ、購入者が好きな方を選ぶという一風変わった本屋だ。
雪莉さんは、中国の伝統文化の真髄を表現するのに繁体字はぴったりだと感じている。そのため、彼女の願いは多くの大陸の中国人にもっと繁体字に触れる機会を持ってもらうことだ。
ある日のこと、雪莉さんと友人らは談笑中に繁体字の話題に触れたところ、全員がカフェを開くことで意気投合した。ほどなく雪莉さんが北京北二環安定門の車辇店胡同で、傷んではいるけれども伝統的な中庭の付いた理想の物件を探し出した。改装工事を行うと、こじんまりとした暖かな雰囲気の漂う喫茶店が出来上がった。これがカフェ「繁体字」の誕生だった。
この店の特徴は、店内のいたるところに古き良き時代の雰囲気や文学の香りが満ち満ちていることだ。店内ではアンティークなソファやいす、文机やベンチなど使われており、あちらこちらに本が置かれている。この店にある本は全て、台湾で出版された繁体字の書籍だ。
店内に簡体字で書かれたものはほとんどないほか、カフェ「繁体字」にはもう一つの特徴がある。来店して繁体字の書き方を練習した顧客には割引サービスを提供していることだ。
顧客はメニューを受け取る際、繁体字を練習するための紙も渡される。上半分には2つから4つの繁体字の漢字とその書き順が記されており、下には自分で書き写し、練習するための欄が設けられている。そこに正しく繁体字を書けた顧客は、支払いが1割引きとなる。
人々が繁体字になじみを感じてもらえるようにと工夫したことで、店は意外にも中国大陸で生まれ育った若い世代の中国人から好評を博するようになった。
来店したある北京大学の学生は、「私たちの世代は繁体字を読むことはできても、書けないのです」と語る。この学生にとって割引サービスはここに来る第一の目的ではない。「実際に繁体字に触れることができ、書き順も理解できる。これこそが最大の収穫です」と目を輝かせる。
中国人はもとより、「繁体字」に魅力を感じる外国人客も多い。彼らもまた、コーヒーを片手に繁体字の練習を楽しんでいる。
雪莉さんは中国文学を専攻する学生を店に招いて、顧客を対象とした文学講座を開いてもいる。漢字の知識を広め、長い年月の間で起こった文字の変遷などについて人々に知ってもらいたいからだ。大都会・北京の喧騒から離れた街の片隅に、ひっそりとたたずむカフェ「繁体字」。今日もまた、人々を繁体字の世界にいざなっている。