訪日外国人観光客の急増を受け、府警が、街頭に立つ「おまわりさん」の英語力を高める取り組みを進めている。道案内や落とし物の問い合わせ、外国人がトラブルに巻き込まれた際などに即応できるようにするのが目的で、今月には「国際化推進計画(Welcome Kyoto Project)」を策定。安心して観光を楽しんでもらうため、〈おもてなし〉に力を注ぐ。(三島浩樹)
「How do I get to Kyoto Station?(京都駅には、どう行けばいいですか?)」。
繁華街・河原町で5月、マレーシアとインドネシアから観光に訪れた男女2人が、中京署の辻本浩章巡査長(34)に声をかけた。辻本巡査長は地図を広げ、少したどたどしい英語で道順を説明。2人は「アリガトウ」と言って、バス停に向かった。
京都市によると、2015年の市内の外国人宿泊客は前年から7割増の316万人と過去最高を更新。中京署によると、辻本巡査長が勤務する木屋町警備派出所で対応した外国人の案件は、今年4~6月に237件(496人)にのぼった。
多いのは地理案内だが、5月には、オーストラリア人の男(34)がタクシーのドアを蹴り、器物損壊容疑で現行犯逮捕される事件もあった。同署幹部は「取り扱い数は10年前の10倍にも感じている」と話す。
同署では4月から、交番や派出所などの地域警察官を対象に週1回の英会話教室を始めた。辻本巡査長も受け、「少しは会話ができるようになってきた」と手応えを感じている。
宇治署では、語学力がある署員8人が「May I help you?(何かお困りですか)」と書かれた腕章をつけ、平等院鳳凰堂(宇治市)周辺などの観光地を巡回する取り組みを6月から実施している。
外国人の取り扱いは各署で増えており、府警によると、東山署祇園交番では昨年10月、外国人の地理案内だけで約1800件にのぼったという。
そのため、府警は今月1日、国際化推進計画を策定。外国人対応力を強化することが目的で、10月から同交番をモデル交番とし、英語のできる警察官を24時間体制で配置する。通訳可能な警察官には腕章をつけさせ、90か国語対応の通訳アプリをいれたタブレットも交番に配備。また、現在157人いる指定通訳員を2020年までに200人に引き上げることを目指すという。府警は「世界有数の観光都市の治安を担う警察として、外国人に安全と感じてもらえるよう総力を挙げたい」としている。
◇専門用語 大学で講習
各地の警察でも英語力向上の取り組みが進む。
東京五輪を控える警視庁は昨年度から、指定通訳員(約1000人)向けの研修を実施。ビジネスで使う英語の力を測るテスト「TOEIC」(990点満点)で900点程度の実力を得るのが目標という。
大阪府警では2013年度から地域警察官らが英語や中国語、韓国語を学ぶ講座を月に5回ほど開催。受講者は同年度は約210人だったが、15年度には3倍超の約690人に増えた。北海道警でも昨年10月、交番などで使うことが多い英語のフレーズをまとめた冊子を作成し、全警察官約1万2000人に配布した。
京都産業大(北区)は京都、滋賀両府県警と協定を結び、現在、7人が、英・中・韓3カ国語で警察・司法用語を学ぶ。
カリキュラムを作成した同大学の須賀博志教授は「訪日外国人は今後、さらに増えるとみられ、地域警察官は、被害届が受理できるレベルの語学力が必要になるだろう。警察学校での語学研修制度など組織としての仕組み作りを急ぐべきだ」と話す。