県の財政負担に見合うPR効果を示せるかが問われている
(東京都中央区日本橋)
2020年の五輪開催を控えた東京で、地域の特産品を扱う公設アンテナショップの出店が相次いでいる。滋賀県も10月末、情報発信拠点「ここ滋賀」を設けた。大半は集客が見込める東京駅近辺に集まるが、出店経費の負担が大きく、周辺部への出店や民間店舗の活用など自治体の戦略も多様化している。
12月上旬、オフィスが並ぶ日本橋交差点角のここ滋賀を訪れると、バーカウンターがにぎわっていた。この日は甲賀市商工会が地酒や信楽焼をPR中で、近くに勤める男性会社員(62)は「滋賀の酒は濃厚で好みの味。ふなずしもおいしかった」と杯を重ねた。
■北海道は10億円超
アンテナショップを調査する「地域活性化センター」(東京都)によると、都内の公設ショップは昨年4月時点で65店舗。10年で倍増し、ファンがショップ巡りを楽しむなど消費者の関心も高い。ここ滋賀も11日に来店者が10万人を超え、目標(年45万人)を上回るペースの人出だが、笹井仁治所長は「喜んでばかりもいられない」と気を引き締める。
背景には財政負担の重さがある。日本橋など東京駅周辺は百貨店も多い一等地で、出店費用は高額。ここ滋賀周辺に店を持つ6県の昨年度の負担は平均8100万円。滋賀県も運営に年約1億2千万円を充てる。
一方、15年度の売り上げは1位の北海道どさんこプラザ(有楽町)こそ10億円を超すが、半数は3億円に満たない。ここ滋賀の目標も2億円で、県の収入はそのうち3%。地元経済や観光への具体的な波及効果を示せなければ、負担への理解は得られない。
そんな中、地域間交流の縁をたどり、周辺部に活路を見いだす動きもある。
東京駅から鉄道で20分余りの住宅街に囲まれた戸越銀座商店街(品川区)に昨年、「東尋坊」で有名な福井県坂井市がショップを開業した。2年前に始めた区との連携事業がきっかけで、店の運営予算は年1千万円。店内には野菜や総菜など買い物客の利用を意識した商品が並ぶ。
人口約7千人の山形県飯豊(いいで)町も、新宿駅から少し離れた高円寺(杉並区)に店を構える。農業体験を通じた縁で賃借料は商店街と折半し、町の負担は年800万円にとどまる。
■コンビニ活用
自前の出店とは別の道を探る府県もある。京都府と徳島県は、それぞれ大手コンビニエンスストアの店舗に特産品を扱う専門コーナーを設けている。府担当者は「民間との連携により、経費ゼロで府域の魅力を発信できる」と胸を張る。
デメリットもある。商品を選ぶのはコンビニ側。売れ筋を考慮し、棚には京都市内の店の製品が多く、府域の特産品が十分PRできているとは言い難い。京都市が単独で設ける「京都館」は来年3月に閉館し、再開は五輪後を予定。首都圏で今後、京都の存在感が低下する懸念もある。
「一般客だけでなく、小売店の仕入れ担当者や多くの訪日外国人に商品の味わい、肌触りを直接知ってもらえる」。地域活性化センターの畠田千鶴広報室長は首都圏で地域をPRする意義を強調しつつ、「次のヒット商品は、市場動向を踏まえて地域資源を磨き上げることで育つ。地元と東京双方の情報を知る行政は、積極的につなぎ役を果たす責任がある」と指摘する。