移植手術で起きた合併症について説明する理研の高橋政代プロジェクトリーダー(右)
=神戸市中央区・市立医療センター中央市民病院
理化学研究所などのチームは16日、他人のiPS細胞(人工多能性幹細胞)を使った移植手術を行った重い目の病気の患者1人に、網膜表面に膜が生じるなど合併症が起こったため、新たに手術を実施したことを明らかにした。
iPS細胞を使った臨床研究で入院が必要となる重さの「有害事象」の報告は初めて。原因はまだ不明だが、iPS細胞との因果関係は否定できないという。
チームによると、患者は滲出(しんしゅつ)型加齢黄斑変性で70代の男性。昨年6月、他人のiPS細胞からできた網膜の細胞を含む溶液を左目網膜の下に注入した。術後、網膜の表面に網膜前膜ができ、10月には網膜の腫れを確認した。視力低下の訴えはなかったが、悪化が予想されたため1月15日に新たにできた膜を取り除く手術を行った。引き続き臨床研究には参加できる。厚生労働省などには同日、報告したという。
理研などは、他人のiPS細胞を使った溶液を注入する臨床研究として計5人に同様の手術を実施し経過観察している。
手術を行った神戸市の市立医療センター中央市民病院での会見で栗本康夫眼科部長は「網膜の表面に膜ができた原因はこれから分析するが、患部から漏れ出たiPS細胞由来の組織からできた可能性を強く疑っている」と話した。他人のiPS細胞からできた組織に対する拒絶反応が原因である可能性は低いとした。
理研の高橋政代プロジェクトリーダーは「同様の合併症はES細胞(胚性幹細胞)を使った手術でも報告がある。手技の改善は検討したいが、iPS細胞の臨床研究に影響はない」と強調した。
■研究段階、冷静に受け止めたい
位田隆一・滋賀大学長(生命倫理法学)の話 iPS細胞を使った研究を続けていく中で、眼科領域に限らず、ある程度の重さの有害事象は今後も起こるだろう。研究段階の医療には付きものなので、冷静に受け止めたい。さらに難しい合併症が生じる可能性もあるが、研究チームは適切に対処し、積極的に公開することが重要となる。