祇園祭山鉾連合会顧問の吉田孝次郎さん(80)が、京都市中京区の山鉾町内にある自宅の国登録有形文化財「吉田家住宅」を将来、市に寄付することを決めた。「潔い決断を尊重したい」と市は受け入れる方針だ。ホテル用地などへの需要が高まる中で京町家の取り壊しを回避するため、自治体が継承者となる新たな事例として注目される。
吉田さんと妻サトさん(80)は、2人の死後、吉田家住宅の建物と敷地を市に遺贈する内容の公正証書遺言を昨年11月に作成した。遺言と合わせて市に対する請願書も作成、「建物を活用する団体などがない場合は、土地建物を処分しても構わない」との旨を記した。将来、建物の維持管理費などが市の負担とならないよう配慮したという。
市は遺贈を拒否することもできるが、市まち再生・創造推進室は「建物の貴重さはもちろん、京町家を街の財産とするための潔い決断を尊重したい」として受ける方針だ。活用方法は今後検討する。京町家を市に寄贈したいとの申し出は他にもあるといい、「今回のケースを機に、市が受け皿となるための方針を整理していきたい」としている。
山鉾連合会理事長も務めた吉田さんは「私たちの住まいである一方、商人町衆の生活文化や山鉾町民の歳時文化を今に伝える公共的な建物でもある。この家が京都の生活文化を継続する拠点になるなら、私たちがここで暮らし続けてきた意味があると思う」と話す。
吉田さんは、来月7日に市役所を訪れて遺言書と請願書を門川大作市長に手渡す。遺贈に向けた法律面での調査に取り組んできた「京都まちづくり承継研究会」の石田光廣代表は「自治体が所有者となることで貴重な建物を守りつつ活用する道を開く道筋ができる。京町家がどんどん壊されている現状に歯止めをかけるきっかけになれば」と話している。
■吉田家住宅
国登録有形文化財、京都市景観重要建造物。祇園祭の山鉾の一つ、北観音山を出す新町通沿いに建つ。通りに面して店舗棟、奥に居住棟がある「表屋造り」で、1909年築。「京都生活工芸館 無名舎」として予約制で公開している。