「私、カートに入れられました。お買い上げありがとうございます」
2015年12月、インターネット通販大手アマゾンジャパン(東京都)のサイトに「お坊さん便 法事法要手配チケット」が初出品された。京都府南部の20代僧侶は当時、“派遣仲間”と冗談交じりにスマホでやり取りした。「僧侶派遣は以前からあったが、これで知名度が一気に上がった」
お坊さん便のアマゾンでのカテゴリーは「ホーム&キッチン」。花束を持つ夫婦が僧侶と向き合う写真のサイトで、手配チケットをカートに入れて届け先を選択、注文を確定する。手続きは他の商品と同じ。車代や心付け、お布施を含む料金は定額だ。クレジットカードで決済でき、アマゾンポイントも使える。別に戒名のチケットもある。レビューに賛否を含む約200件の感想が書かれている。
出品したのは東京都品川区の葬儀関連会社。寺と付き合いがなく、お布施の相場を知らない人向けのサービスという。同社は、アマゾンからメールを受け取ると依頼主に電話する。故人の氏名や、四十九日か三回忌かなど法事内容、日時、場所、宗派を確認し、手配する僧侶名を書いた「手配報告書」(チケット)を依頼主に郵送。法事までに僧侶が依頼主に電話を入れる。
通常、依頼主と派遣僧侶は初対面。滋賀県日野町に自坊があり普段は大阪府内に住む寺澤真琴さん(55)は昨春に派遣僧侶となった。故人が明るい性格でカラオケが好きだったと事前に聞き、法名(戒名)に「朗」や「明」の漢字を入れたことがあるという。
16年の同社への問い合わせは前年比の約2倍。アマゾン出品時に約300人だった提携僧侶数は昨年末に1100人を超えた。広報担当の中島英摩さん(33)は「法事や葬儀で困っている人がいなければ問い合わせ件数は伸びない」といい「僧侶の皆様からも支持された」と受け止める。
一方、主要宗派が加盟する全日本仏教会(全日仏、東京都港区)は16年3月、アマゾンに販売中止を求めた。宗教行為を商品として扱い、お布施を定額表示したとの批判だ。お布施は本来、宗教行為への対価ではなく、定額にすることで宗教性を損なうという。
これが報道されると逆に、現在の寺や僧侶の在り方に対して、全日仏に批判が寄せられた。「高額なお布施を請求され、払えないなら帰ると言われた」「僧侶を頼む窓口が分からない」という意見があった。
強気の批判が一転。昨年11月、京都市下京区の西本願寺で開催された全日仏の理事会に「大いに反省し(略)愚直に信頼を回復する」という具申書が提出され、加盟教団に、法事や葬儀の相談窓口の設置や僧侶の資質向上などを求めた。
檀家との関係希薄化や都市部住民へのアプローチ不足。そして、経済至上主義のまん延とコミュニケーション方法の変化。別の全日仏の文書には、仏教界側の反省と現代社会を考察する言葉が並ぶ。アマゾンが突きつけた厳しい現実。広報文化部長の中村甲さん(35)は「世の中の変化に対応できていなかった。ただ、どう変わるべきかはそれぞれの教団、僧侶が考え、実践していくしかない」と話す。
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宗教を巡る環境が大きく変化してきた。そのうねりの中で、宗教者はどうあればいいか。もがく僧侶たちの姿を追うと、変わる社会や人々の心持ちが垣間見えてくる。(「神仏のゆくえ うねりのなかで」6回連載の1回目)