東市跡で見つかった「厨」と刻まれた緑釉陶器の皿底の一部
平安京の公設市場「東市」に、役人の食事を担う厨房(ちゅうぼう)があった―。龍谷大大宮キャンパス(京都市下京区)で行われた東市跡の発掘調査に伴う昨年の整理作業で、皿底の一部に調理場を意味する「厨(くりや)」の文字が刻まれていることが分かった。東市を管理した役所「市司(いちのつかさ)」の調理場に関する皿とみられ、施設の配置など不明な点が多い市場内を知る上で貴重な発見という。
東市は、現在の大宮通と堀川通、正面通と七条通に囲まれた範囲に店や役所などが設けられ、周辺の「外町」に関係者が住んでいたと考えられている。
中世の公家の百科事典「拾芥抄(しゅうがいしょう)」や13世紀の絵図によると、「市司」の位置は大宮キャンパスにあたるが、これまでの発掘調査で明確な遺構や遺物は確認されていなかった。
今回見つかったのは、京都近郊産とみられる緑釉(りょくゆう)陶器の直径約10センチの皿底で、とがった工具で「厨」と刻まれていた。9世紀後半の1・6メートル四方の方形木組み井戸跡から、瓦や土師(はじ)器と一緒に出土した。調査した龍谷大の國下多美樹教授(考古学)は「瓦屋根は当時、寺院や役所などに限られており、井戸や出土品は市司に関連する可能性が高い。料理を盛った皿を調理場から市司に届け、後で回収できるよう目印を刻んだのだろう」と推測する。
西山良平京都大名誉教授(日本古代・中世史)は「市司の推定場所で得られた貴重な物証だ。今後の研究や発掘調査を進める上で指標となる発見だ」と注目している。
発掘調査は終了している。