新井一二三さん
(台北 6日 中央社)中国語書籍を多数発表している日本人作家、新井一二三さんが5日、台北市内で新刊発表会を開催した。新刊「媽媽其実是皇后的毒蘋果?」では、母親との関係についてつづられる。新井さんは、中国語で作品を執筆するのは、母語では語るのがはばかられることが表現できるからだと話す。
新井さんは中国語作品を初刊行した1999年以降、毎年平均1~2冊を発表し続け、これまでに台湾で出版した著作は27冊に上る。今作のテーマになった母親との関係について、第1作目の中国語作品「心井・新井」ですでに「外で暮らすのは、母親から逃げて、より自由な空間を見つけるため」と母親との間に存在する確執を告白していた新井さん。また、暗い影から逃れるために執筆を始めたことを明かし、いつかその闇自身について書くと宣言していた。
母語の日本語で母親を否定するのは、気持ちがいいものではないと新井さんは話す。日本文化ではそれが許されず、タブーとされるからだと説明し、だからこそ外国語での執筆を選択したと語る。中国語で文学の形式を用いて書くことで、口頭では言いにくいことを表現できるという。中国語は母親が解読できないパスワードとなり、「扉を閉じられる部屋」として大きな思想の空間を自身に与え、自由と幸福を初めて味わわせてくれたと外国語が持つ力について言及した。
中国語を学んだ経験に話が及ぶと、瞬く間に幸せに満ちた表情を浮かべた新井さん。中国語学習との関係を「一目惚れ」という言葉を使って形容し、中国語への愛をのぞかせた。
「この本を執筆したのは、現在いる環境が選択可能な唯一の生活の仕方というわけではないことを読者に伝えたかったから」と新井さんは語る。「もし変えたいなら、別の場所で生活し、異なる言葉を話し、異なる文化や環境に身を置くことを試してほしい。もしかしたらより良く暮らせるかもしれない」と悩みを抱える人々の背中を押した。