撮影初日にスタッフに指示する中島貞夫監督(中央)
京都映画界を代表する名匠・中島貞夫監督が、83歳にして20年ぶりに長編劇映画を監督する。長年構想を温めてきた本格的なチャンバラ映画。「最後の力を振り絞り、極限の立ち回りを撮る」と力を込める。来年以降の劇場公開を目指し、太秦の東映京都撮影所(京都市右京区)を拠点に26日に撮影が始まった。
「ヨーイ、スタート!」。右京区の竹林で中島監督の声が響いた。カメラの横に立ち、俳優の演技を鋭く見つめる。
新作は自ら中心となって脚本を書いた「多十郎殉愛記(仮)」。幕末の京を舞台に、長州を脱藩した多十郎を主人公にする。「単純な正義の志士では魅力がない。行き詰まった生活から別の世界に入りたいと願う、現代にも通じる屈折を表したい」。混沌(こんとん)とした人間の本質に迫る作風を貫く。
出演者などの詳細は今後発表されるが、数十人の大立ち回りから、一対一の対峙(たいじ)まで、さまざまな殺陣を見せる。「長く活動屋をやってきて、立ち回りのある映画はほぼ見た。結果が分かる勧善懲悪でなく、情念のこもった戦前の名作、伊藤大輔監督の『長恨(ちょうこん)』のようなドラマを撮りたい」
中島監督は東大文学部卒で1959年に東映入社。64年に「くノ一忍法」で監督デビューし、「木枯し紋次郎」「真田幸村の謀略」といった時代劇をはじめ、ヤクザの実録物や文芸物など過去62本を監督した。3年前にドキュメンタリー「時代劇は死なず ちゃんばら美学考」を撮ったが、劇映画では98年の「極道の妻(おんな)たち 決着」以来になる。
「チャンバラは京都の映画が生んだ最大のパフォーマンス芸術。命を懸けて戦う殺陣の魅力を存分に見てほしい」としている。