女性会員になった潮田さん(右)と中村さん。
太秦の撮影所にある道場で刀を合わせる=京都市右京区
時代劇を支えてきた東映京都撮影所(京都市右京区、京撮)の殺陣(たて)集団「東映剣会(つるぎかい)」で女性2人が新風を起こしている。滋賀県高島市出身の潮田(うしおだ)由香里さん(41)と長崎市出身の中村彩実(あやみ)さん(33)。ともに未経験だった役者の道に20代半ばで転身、殺陣の稽古を重ねて、60余年の伝統のある剣会への入会を3年前に女性で初めて認められた。「未熟ですが、時代劇や立ち回りに興味を持ってもらうきっかけになれれば」と精進を続ける。
■20代で女優に転身、稽古重ね
「おのれー」「とりゃー」。京撮の道場に勇ましい声が響く。毎週火曜夜にある殺陣の自主稽古。若手俳優たちが木刀を持ち、素振りなどの基礎から動きのある立ち回りまで、3時間にわたり学ぶ。「不断ノ努力 継続ハ功ナリ」。壁には「水戸黄門」でおなじみの里見浩太朗さん(81)の墨書が掛かる。
潮田さんは短大卒でOLだった29歳の時、女優を志した。テレビドラマ「大奥」に興味を持ち、調べると京撮で撮っていた。「このまま年をとって死ぬんだったら、何かやりたい」。2005年、東映俳優養成所(右京区)に入った。
基礎を2年学び、町娘役などに出演。東映太秦映画村のショーで初めて簡単な立ち回りをする役に当たったが「本当に何もできず、悔しくて」。一緒に出演していた剣会の俳優柴田善行さん(50)に指導を頼み、10年ごろから自主稽古を始めた。
中村さんはモデルだった25歳の時、「芝居がしたい」と養成所入り。12年から同様に稽古に加わった。
最初は刀の持ち方さえあやしかったが、まさに「継続が力」になった。潮田さんは「その時々にできることをしてきただけ。上達しているかは分からない」というが、柴田さんは「男性でも続かない子が多い中、一生懸命やっている」と認める。
「日本一の斬(き)られ役」福本清三さん(75)ら剣会の大先輩も彼女たちの努力を知っていた。映画村のショーで少しずつ殺陣ができるようになる姿を見て「女の子が頑張っとる」「ええんちゃう」とうわさに。剣会会員が出る催しに女忍者役を作って呼ぶ時もあった。
剣会は1952(昭和27)年の発足。日本映画の黄金期だった昭和の中ごろには、殺陣の優れた100人を超すメンバーがいた。しかし、時代劇が減り、会員も十数人に激減。高齢化も進む中、何とか技術を伝えたいと模索していた。
2014年、剣会の会員候補に挙げられていると聞いた2人は驚いた。「立ち回りだけでも10年20年やらないと入れないと聞いていた。経験が全然足りない」。それでも先輩たちから「今からもっと頑張ればいい」と激励を受け、心を決めた。準会員を経て15年春に全会一致で会員に迎えられた。
現在、2人は映画村のショーで、主役の新選組・沖田総司役を他の俳優と交代で務める。映画やドラマでは女性が刀を持つ役は少ないが、娘役などで斬られる時、殺陣経験が生きる。「斬られ方でも刀が縦か横、斜めかによってリアクションが違う。先輩の斬られ方や昔の映画を見て、演技のストックをためないと」
近年、BSやCS放送を中心に時代劇の撮影が盛り返しつつある。2人とも、いつかは映画で立ち回りをしたいと夢を持つ。潮田さんは「最初に憧れた大奥もので次々と人を斬ってみたい」。中村さんは「姉御や悪い女親分役を演じたい」。そのためにも地道に木刀を振り続ける。
■殺陣専門コースを新設
東映京都撮影所内にある東映俳優養成所は今春、「殺陣専門コース」を新設。初心者向けと俳優経験者向けの2クラスをそれぞれ週1回開く。講師は東映剣会の会員。年齢不問。随時募集中。問い合わせは同養成所075(862)5053。