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明治以来の盲学校、工夫脈々 京都、触って学ぶ教材へ情熱

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そろばんで計算する中学部1年の生徒たち。
そろばんの玉はこけしのような形をしている(京都市北区・府立盲学校) 



日本版の点字が生まれたのは1890(明治23)年。その12年前に、日本初の公立特別支援学校として京都市に開校したのが「京都盲唖(もうあ)院」だ。現在の府立盲学校(京都市北区)と府立聾(ろう)学校(右京区)には、当時の先進的な教育の記録が残されており、今春、関係資料3千点が国重要文化財に指定されることが決まった。盲学校の資料室を訪れると、明治の先人が傾けた、今につながる「触る」教育への情熱が伝わってくる。

 「願いましては」。テープから流れる音声が数字を読み上げると、パチ、パチという音が教室に響く。盲学校中学部1年の授業で、生徒たちがそろばんを使って計算に取り組む。「あ、間違った」。「全問正解や」。生徒3人が笑い合う。

 手元をよく見ると、生徒の使うそろばんの玉は、おなじみのひし形とは違う。小さなこけしのような形で、玉をはじくのではなく、倒して使うようになっている。目が見えない、見えにくい子どもたちにとって、指が当たると玉がすぐに動くそろばんは使い勝手が悪いためだ。「盲学校では、全国的にこの形が使われています」。授業を担当する谷口政芳教諭(60)が教えてくれた。

 その起源といえるものが、同校の資料室にある。盲唖院初代院長の古河太四郎が1879(明治12)年ごろに開発したという「半顆(はんか)そろばん」だ。ひし形の玉の下部を平らにすることで、玉の回転を防ぐ。また、玉を将棋の駒の形にし、現在も使われている「こはぜそろばん」も、明治40年代に考案された。「視覚障害の子どもには縦書きの筆算がなじまない。触って学習できるそろばんが有用です」と谷口教諭は説明する。

 今から140年前に設立された盲唖院では、「触る」ことで学習できる教材が多く開発された。正方形の木の板の裏表に文字を彫った「木刻凹凸文字」、凸字のカタカナで書かれたイソップ物語…。中でも目を引くのが、1879年に作られた「凸形京町図」だ。

 高さ約1・3メートル、幅約0・9メートルで、京都の大路小路を凸線で表しており、京都駅や有名寺社、当時の番組小の位置を、大小のびょうを打ち込んで示している。資料室担当の坂本健次郎実習助手(40)は「歴史や現代社会のほか、自分の通学路もこの地図で学んでいたようです」

 目で見ても、触っても確かめられる。「この時代に、誰でも使いやすい『ユニバーサルデザイン』が実践されていた。子どもたちがどうすれば理解できるかを常に考えていたのでしょう」と坂本助手は感心する。

 現在の盲学校でも、独自の教材作りが行われている。火山の噴火を学ぶための立体模型など、子ども一人一人に合わせた教材を歴代の教諭が作ってきた。修学旅行の下調べには、九州の立体図や、段ボールにひもを貼った地図が使われた。「視覚以外の五感から情報を得ることが大事。子どもに合わせた指導をしていきたい」と、谷口教諭は力を込める。明治の情熱は、今に引き継がれている。


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