祇園を愛した歌人・吉井勇(1886~1960年)の日記が10日、八幡市立松花堂美術館で始まった企画展「生誕130年吉井勇」で初めて一般公開された。終戦直後の八幡市に滞在していた頃のもので、研究者は「新境地を開いた時期の心情を知る上で貴重な資料」としている。
吉井は東京出身。京都市に移り住み、祇園の芸舞妓まいこらと交流しながら創作を重ねたが、戦争の激化で1945年2月に富山県に疎開。終戦後の混乱ですぐに京都市に戻れず、同年10月から3年間、八幡市で過ごした。
公開されたのは、同市に転入した45年10月26日と、転出した48年8月2日のページ。転入日は「北陸に流離りゅうりの日を送ること八月余、漸ようやく再び城南の地に隠棲いんせいを構ふることを得たり。人生の残夢春秋、この后のちのわが身や如何いかがあるべき」と記され、「残夢」という言葉は、後の歌集のタイトルになった。
転出日には「久しぶりの洛中生活。予としては人生の一轉機てんきに立つものといふべし」とあり、京都市へ移る高揚感があふれている。
静岡県立大の細川光洋教授(日本近代文学)は「八幡で過ごした穏やかな日々で、新たな境地を開いたことがわかる」と話している。
10月10日まで。入場料は一般400円、大学生300円、高校生以下無料。問い合わせは、同館(075・981・0010)。