京都市産業技術研究所などが生地の図柄を高精細に染色できる機械を開発し、京都の風呂敷製造会社が伊藤若冲の「樹花鳥獣図屏風」を壁掛けに再現した。伝統工芸と先端技術を融合させた他の研究成果と合わせ、15日から東京で開かれる展示会でPRする。
白象や鳳凰(ほうおう)、獅子などの動物を描いた伊藤若冲の屏風(びょうぶ)絵「樹花鳥獣図屏風」。その色彩豊かな世界を高精細な染色で表現したタペストリーが、展示会で披露される。産技研と化学専門商社の長瀬産業(東京都)が開発した「デジタル捺染(なっせん)システム」を使い、風呂敷製造販売の宮井(京都市中京区)が制作した。
捺染は布地に絵柄を印刷する染色方法。型版を使う伝統的な手法のほか、デジタルデータを基にインクジェットで染色する方式も普及しているが、模様の精細度や染色のスピードに課題があった。
新開発の機械はトナー(帯電粒子)方式を採用。5マイクロメートル(マイクロは100万分の1)の微少な染色トナーを正確に生地に転写し、若冲の絵のような複雑で奥行きのある図柄も忠実に再現する。インクジェットに比べてにじみにくく、染色のスピードも4倍以上に引き上げられるという。開発に携わった廣澤覚主席研究員は「インテリアのほかに衣服や広告用の垂れ幕などにも応用できる」と強調する。
展示会では、ほかにもさまざまな研究成果をアピールする。案内役の研究員が着るのは、宮階織物(上京区)と開発した「スリットアニメーション織物」。細かな切れ込み(スリット)の入ったメッシュ状の羽織を着物の上に重ね着すると、2枚の生地がずれることで着物の図柄が動いているように見える。
京都樹脂(下京区)が開発した布や紙をアクリルに封入する技術を活用し、西陣織を挟み込んだラウンジチェアやテーブルも製作した。透明なアクリルを通して織物の立体的な模様が楽しめる。
会場では、酸化に強い銅製の赤色釉薬(ゆうやく)やオリジナルの酒造用酵母なども紹介する。産技研経営企画室は「新たな連携先を開拓するとともに、製品化などの商談にも結びつけたい」としている。17日まで東京ビッグサイトで。