現場付近を調べる捜査員ら(京都新聞 1月1日)
大みそかの午後、静かな街に突然、緊張と恐怖が走った。31日、京都市伏見区肥後町の路上で男性2人が刺され、うち一人が死亡した事件。怒号や車の衝突音が響き、刃物を持ってぼうぜんと立つ男の姿も。「来たらあかん。刺される」。戦慄(せんりつ)の場面に遭遇した住民らは、不安を隠しきれない様子で「信じられない」と声を震わせた。
110番した近所に住む女性(58)は事件直後の現場を目撃した。「アホか!」。怒鳴り声を聞いて外に出ると、自宅の前に刃物を持つ男が立っていた。黒のサングラスに帽子姿。放心状態で手が震えていた。「(被害者の)ワゴン車がバックしてきて、民家や壁に当たり、蛇行していった」と、当時の生々しい様子を振り返る。
刃物を持った男のそばで、クラクションを鳴らし続ける車。道端には男性が血を流して倒れている。車の中から、近所の人たちに対し「家に入って」「逃げろ、逃げろ」と叫ぶ声が響いた。
住民の女性(68)は、玄関から出た時に刃物を持った男の姿を見て事件だと気づき、家の中に逃げ戻り、かぎを掛けた。2階から様子をうかがっていると、被害者の車から降りてきた女性が「(止血用の)タオルをください」と訴えているのを聞き、タオルを手に再び外へ。「女性が『子どもがいる』と言ったので、一緒にいた幼い女児2人を抱えて家の中に入るよう、主人と娘に言った」という。おびえ泣く女児たちは抱きかかえられ、近くの新聞販売店と民家に逃げ込んだ。
現場は、住宅に商店、寺院などが立ち並ぶ市街地。路上には前部が大きく破損したワゴン車が止まったままで、立ち入り禁止のテープの向こうで、捜査員らが血痕の付いた車内などで鑑識活動を行った。43歳の主婦は「大みそかに、びっくりした。夜から娘が初詣に行くと言っているが、やめさせようと思う」と心配そうに話した。
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大阪府警四條畷署に、逃走したとみられる男が出頭し、伏見署が男性に対する殺人未遂容疑で緊急逮捕した。
伏見署によると、男は伏見区の中村正勝容疑者(50)。「刃物で人を刺した」と容疑を認めており、猪飼さん殺害容疑でも調べる。猪飼さんは刃物のようなもので右胸1カ所を正面から刺された状態だった。現場近くにバンパーなどが壊れたワゴン車が停車しており、救急隊の到着時、男性は車の運転席にいた。中村容疑者は男性らと面識があり、現場前のマンションに住んでいたとの情報がある。
同署の説明では、猪飼さんと男性は、子ども2人を含む男女計7人で現場を訪れていた。猪飼さんらと一緒にいた男性(24)と女性(21)は同署の調べに「(中村容疑者と)人間関係でもめていた。皆で話し合うためにワゴン車で現場まで来た。猪飼さんと男性は車を降りた直後、刺された」と話しているという。
現場は伏見区役所から北西約200メートルの住宅街。