会見で厳しい表情を見せるiPS細胞研究所長の山中伸弥教授
京都大iPS細胞研究所(京都市左京区)で22日、論文の不正が発覚した。所長を務める山中伸弥教授は会見で深々と頭を下げ、悔しさをにじませた。降圧剤の臨床研究で不正が行われたディオバン事件やSTAP細胞問題など、日本において研究不正は後を絶たない。世界のiPS細胞研究をリードし、厳しい不正防止策を講じてきたはずの同研究所。チェックが形骸化していた実態や、成果が求められる有期雇用の制度が背景に見えてくる。
2010年の開設以来、iPS細胞研究所は実験専用ノートを全研究者に配布する。「(書き換えが可能な)鉛筆の使用は不可」「プロジェクトごとに別のノートを使う」「データなどの記入は続けて行い、空白部分がある場合は斜線で消す」などの注意書きが添えられており、3カ月ごとに知的財産の担当者に提出することが定められている。データ管理を徹底し、データの改ざんや捏造(ねつぞう)を防ぐ役割を持たせている。
同研究所によると、山水康平助教のノートの提出率は86%と高かったが、記入内容は「メモ書き程度だった」という。論文発表の前には、実験の生データについても研究所に提出することを義務付けていたが、ノートやデータの内容についてのチェックはほとんど行われていなかった。
不正防止対策について、山中教授は「厳しくやっていると自覚していたが、気が付くと形骸化していた」と反省の弁を述べた上で、「実験の段階から主任研究者が各研究者のノートを自らチェックし、不備がある場合はイエローカードを出すことをしないと不正は防げない」と語った。
iPS細胞研究所に所属する研究者は、教授ら一部の主任研究者を除いてほとんどが有期雇用だ。山水助教も雇用期限が今年3月末に迫っており、研究成果が、雇用延長や別の研究機関での就職に反映される状況だった。
学内の研究を管轄する湊長博理事・副学長は「(成果を出さないといけないという)プレッシャーはみんなが感じている。研究不正は個人の資質によるところが大きい」とした上で、「大学院、学部時代からの教育こそが非常に重要だ」と、さらに研究倫理に関する教育を学内で徹底させていく考えを示した。
(京都新聞)