三嶋亭の牛肉販売コーナー。良質な肉を仕入れ、京都人の胃袋を満たしてきた
京都で牛肉料理店が広がる要因には、土地柄も影響している。京都市の牛肉消費量は全国1位。和食文化が花開いた歴史都市というイメージとギャップがあるが、京都の人々は牛肉好きなのだ。なぜなのか。関係者に尋ねると、市民気質や地理的な特性などが理由に挙がった。
総務省の家計調査によると、京都市で2人以上の世帯が1年間で牛肉消費に使う金額(2015~17年平均)は3万8018円と全国の政令指定都市ではトップ。数量も約9・8キロで1位だ。パンの消費量が全国1位であることはよく知られるが、牛肉もそうだとはあまり知られていない。
「京都の人は新しもん好きで、舌が肥えている。(和装産地の)西陣や室町の旦那衆らがおいしいお肉を求めてきたのでは」と推測するのは、京都食肉買参事業協同組合理事長を務める食肉卸・小売の銀閣寺大西(京都市左京区)の大西雷三社長(58)。京都の人々は「伝統と進取の気風を併せ持つ」とされる。そのニーズに応じて上質な肉が集まり、料理屋もしのぎを削ってきたため、牛肉食が広がったとみる。
地理的な利点もあったとみられる。「昔から松阪や近江、神戸といった産地に近いため、良質の肉が集まってきた」。解体や競りを行う市中央食肉市場(南区)の関係者は話す。同市場は3月に最新の施設に建て替えられたが、前身の「京都市立と畜場」は明治42(1909)年の開設。長い歴史の中で、市場や料理人は良い肉を見極める「目利き力」が鍛えられたという。
京都人の牛肉好きを表すエピソードとしてよく語られるのが「お正月はお節の後に、すき焼きを食べる」という風習だ。年末の大みそかには、食肉販売店に行列ができるという。大西社長も「私も幼い頃から正月の1月2日はすき焼きだった」と打ち明ける。
老舗すき焼き店で、食肉販売も行う三嶋亭(中京区)の三嶌太郎社長(53)は、京都で牛肉が好まれてきた理由について「和食は動物性の油脂が少ない。それを補うため、ハレの日に牛肉を食べるなどし、日常に取り入れるようになったのではないか」と分析する。
同じく明治2(1869)年に京都で初めてすき焼き店を開業し、食肉販売も行うモリタ屋(中京区)の吉岡浩人社長(58)も「文明開化で知識人が牛肉を食べ始め、新しいもの好きの京都の人も率先して食べるようになった」とみる。近年は肉料理のお総菜や弁当販売にも力を入れており、「今後も手軽にお肉を食べられる取り組みを続け、家庭での消費につなげていきたい」としている。