冬季船ならではの迫力に乗客が驚いていた
冬の保津川下りに乗船した。ダイナミックな振動を体感し、水面に近い視点の醍醐味を味わった。
冬場に運航していることは、京都府・丹波の人たちにさえ十分に知られていないようだ。連載企画やコラムなどを通じて、世界に誇るべきオンリーワンの生きた文化遺産として、保津川下りの魅力発信を心掛けてきたつもりの記者自身、実は冬の乗船は初めてだ。
ベンチ型のシートは取り除かれ、フラットな床にじゅうたんが敷かれている。視点の位置が水面すれすれに低いことがわかる。この日の流れは穏やかだ。ガンやカモの仲間が、手を伸ばせば届くような位置に浮かんでいる。紅葉や桜のシーズンとは異なる水墨画の静けさを連想させる。
流れを集める石組みなど操船の難所では、高低差が大きい瀬を一気に下る。船底をこする瞬間、ガシッと心地よく尻に響いた。
夏目漱石は『虞美人草』で、保津川下りをこう描写する。「傾いて矢の如く下る船は、どどどと刻み足に、船底に据えた尻に響く」。実際に座敷仕様の船に乗らないと書けない迫力が伝わる。冬場の運航では漱石と同じ気分を感じ取ることができた。
透明のビニールシートなどで覆われ、ストーブで温められた船内は、コートを脱ぐほど温かかった。